3.目
「んー……」
亜莉栖がしきりに目を擦っている。
「どうしたの?」
「睫毛が目に入ったみたいで、取れない」
もぞもぞと手を動かしながら言う。
美穂は顔を寄せた。
「見せてみて」
「んー」
手を止め、指で右目の下瞼を引っ張る。
美穂がさらに近付く。
「あー、これだ」
そう言って、目に口を寄せた。
反応する間もなく、美穂の舌が伸びた。
痛みはない。瞼を伝うねっとりとした唾液の感覚。
驚きと初めての感覚にどうすればいいのかわからず、なぜか口をぱくぱくと金魚のように動かす。
瞼が痙攣するが、舌は割り込むようにして執拗に目玉をなぞる。
ごろりと何かが剥がれるような違和感の後、舌と、美穂は離れた。
「んえ……取れたと思うけど」
美穂は舌をなぞり、睫毛を指先に出した。
亜莉栖は目の周りに残った唾液を拭き、ぱちぱちと瞬きをした。
「……あ、取れてる」
「眼球は痛覚がないの」
ハンカチで指先を拭い、事も無げに言う。
亜莉栖はしばらくよく分からない呻き声を上げた後、言った。
「美穂、たまーにヘンタイじみてるよね」
「誰かさんのせいでね」