2.無表情
「……はあ」
溜息を一つ。
美穂は床にぺたりと座り込み、一点をじっと見つめた。
部屋の中をぐるぐると回っていた亜莉栖がそれに気付き声を掛けようと近寄ったが、一歩離れた所で止まった。
虚空を見つめる美穂。
整った顔立ちとしょっちゅう溜息を吐く癖が相まって、怒っているように見えるだとか無感動なのだと思われがちだが、ただ表現が強くないだけで実は感情豊かで顔に出やすいのを亜莉栖は知っている。
しかし、今の美穂は溜息を吐くでもなく、口をへの字に歪めるでもなく、ただただじっと顔を凍らせている。
本物の人形みたい。
そんな事を思ったが、おそらくこの状況の原因が自分にあるのだと気付き亜莉栖は邪念を吹き飛ばした。
まずい。多分、きっと、本当に怒ってる。
話しかけようと口を開き、無意味に手を持ち上げ、下ろし。
こうしている間も、美穂は動かない。
どうしよう。どうしよう。
「……あのさ」
反応はない。
亜莉栖は美穂の横に座り、顔を覗き込むようにして、言った。
「怒ってる、よね?」
美穂の首がかくんと斜め前に傾き、赤いプラスチックフレームの眼鏡が大きくずれた。
そのまま首だけを亜莉栖に向ける。
「……にむい」
亜莉栖は二度瞬きをしてから、足を正して座りなおした。
「……膝、使う?」
「ん」
亜莉栖の腿を枕にし、横になった美穂。
少し緩んだ口元を見て、亜莉栖は小さく笑い、美穂の髪をそっと撫でた。