1.全身


 真っ白な、殺風景な部屋の中、ぽつんとビデオカメラが一つ。
 その視線の先、あるいはレンズの先には少女が二人。
「……で、こんな怪しいバイトを受けてきたの?」
 黒髪の少女は厳しい口調で言った。
 あはは、と誤魔化すように笑い、もう一人の茶髪の少女が返す。
「バイト代とかすごい良かったから、つい……」
 はあ、と黒髪の少女が溜息を吐いた。
「で、どういう仕事なのこれ」
 疑問はもっともだ。
 窓も何もない立方体の部屋の中、三脚に立てられたカメラが一つ。
 仕事どころか、別に何が出来るような場所でもない。強いて言うならテレビ番組の撮影用セットのようだ。
「えーっと。指示に従って行動すればいいんだってさ。……あでっ」
 茶髪の少女の頭に落ちてきた謎の素材の板。
 黒髪の少女はそれを拾い上げ、書かれた文字を声に出して読んだ。
「全身、正面。とりあえずカメラに全身を見せて、自己紹介してください。だってさ」
「うーし、じゃあやってみよー」
 茶髪の少女はカメラの前に立ち、くるりとゆっくり一回転した。
 白いブラウスに紺色のスカート、同色のベスト。リボンは臙脂色。
 地味な学生服と対照的に、くりくりした小動物のような目付きと微笑みが馴染んだ口元、自然な栗色のウェービーセミロングは明るく元気なイメージだ。
「えーっと、亜莉栖です! 苗字はヒミツで。趣味は……なんだろ? あ、美穂と話すのはスキかな。よろしくおねがいしまーす!」
 体をくの字に折って、大げさに頭を下げる。
 そのまま海老のようにあとずさって、黒髪の少女に場所を譲る。
「ささ、次は美穂の版ね、どうぞ」
 美穂と呼ばれた黒髪の少女は眉をひそめたが、諦めたように溜息を吐き、カメラの前に立った。
 亜莉栖と同じ学生服だが、肩のところで斜めに切りそろえたワンレングスの黒髪と、少し細めの凛々しい目は正反対の印象だ。
 しかし亜莉栖よりも少し小柄で、二人並んでいるとクールな印象よりも人形のような可愛らしさが強調される。
「美穂です。よろしくお願いします」
 ぺこりと綺麗に膝に手を沿えお辞儀。顔を上げて亜莉栖の横へ戻る。
「で、どうするの?」
「……さあ? 次の指示待ち?」
 美穂は深々と溜息を吐いた。
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